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9-16 噂話 1

last update Terakhir Diperbarui: 2025-06-06 18:59:21

「え? 始めるって何を……?」

翔の顔に戸惑いが浮かぶ。

「歩行訓練ですよ。術後、早く歩けるようになればそれだけ入院期間も短くなりますので。少しお待ちくださいね。今歩行器を取ってまいりますから」

藤井はそれだけ言うと部屋を出て行った。

(歩行訓練? まさかあの看護師と一緒にやるのか?)

その時、ドアをノックする音が聞こえた。

『翔さん、中へ入ってもよろしいですか?』

それは朱莉の声だった。

「ああ、大丈夫。入っていいよ」

翔の呼びかけにドアがすぐに開かれ、朱莉が顔を覗かせた。

「失礼します。翔さん、手続きが無事終わりました」

ベビーカーを押しながら部屋へ朱莉が入って来ると、すぐに藤井も現れた。しかも今回はノックをせずに入室してきたのだ。これにはさすがに朱莉も驚いた。

(え? この看護師さんは昨日の……? でもノックもせずにいきなり入って来るなんて……)

すると藤井と朱莉の視線が合った。

「こんにちは、奥様。鳴海様はこれからこれから歩行訓練を始めるんです」

「こんにちは。歩行訓練ですか? 今から始めるんですか?」

「はい、今からです」

すると翔が口を挟んできた。

「あの…折角妻が来てくれているので歩行訓練は後にさせていただけませんか?」

「いいえ、それは出来ません。ドクターからの指示なのですから、ちゃんとスケジュール通りに行わなければなりません」

「ですが……」

すると、朱莉が翔に声をかけてきた。

「翔さん、看護師さんの言う通りにされた方がいいと思いますよ。私はここで待っていますから」

「朱莉さん……」

朱莉にそこまで言われてしまえば、翔はこれ以上拒絶できなかった。

「分りました」

「はい、ではベッドから足を降ろして下さい。あ、そう言えば履物は……」

藤井が言いかけた時、朱莉が返事をした。

「あの、スリッパとカジュアルシューズを持ってきたのですが……どちらがよろしいでしょうか?」

「あら、持ってきていただけたのですか? それでは今回はスリッパで歩きましょう。この病棟のフロア内を歩くだけですから」

「分りました。朱莉さん、履物を持ってきてくれてありがとう」

「いいえ。とんでもありません」

翔がスリッパを履くと、藤井が翔の目の前に歩行器を持ってきた。

「さあ、こちらに捕まって下さい」

「くっ…」

翔は痛む傷を我慢しながら、歩行器に捕まった。

「大丈夫ですか?」

咄嗟に藤
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